「些細なこだわり」 【特別記念トーク】

「ハラスメントの認識には、個人差があり、時間差がある。

 社会や組織の中で、この『差』を埋めてゆくことが大切」

※ 写真は左から、太田啓子、平井早紀、舩橋淳 (敬称略)


<鼎談>

太田啓子弁護士

平井早紀(映画「些細なこだわり」 主演)

舩橋淳 (映画「些細なこだわり」 監督)


セクハラは男女関係の日常に潜んでいる

舩橋:今回『些細なこだわり』という映画で作ることになった理由をお話しします。

 日本は長らく男性社会だと言われ続けていたんですけれども、僕の働く映画業界でも問題に巻き込まれてしまった知り合いがいたり、セクハラが社会的な問題になることが幾つか散見されて、非常に身近なものだなと思うようになったんです。

 以前ニューヨークに10年住んでたんですが、日本に帰国したときに違和感を覚えたのが、女性はこうするもの、男性はこうするものというような、箱に嵌めるような考え方でした。それって日本独特だなと感じて…。それに対して、2017年の #MeToo 運動の影響もあって世界的にいろいろな人々が声を上げ始めたり、問題視する人が増えてきました。

 日本でも言葉使いも含め、問題視する人が確実に増えてきていたので、世界のいまの問題として映画にするのは非常に意味があるんじゃないかと思ったのが、スターティングポイントでした。大事なのは、セクハラってどこでも日常に潜んでいるという点です。

太田:そうですね。

舩橋:セクハラはどこにでもあると思う。職場にでもあるし、学校でもあるし、夫婦の間でもあるし、恋人同士でも、友達同士でも、どこでもあると思うんです。そういうところにも、自分は絶対関係ないと思っているからこそやってしまうというのが、多分、セクハラだと思うんです。

 だから僕はともすると「自分がやりかねない」と思っています。どこか緊張している。軽くちょっと「あなた、歳、幾つ?」みたいな感じで歳を聞くこと自体がセクハラだったりというのも、なりつつある、なっていると思うんです。だから非常に自分を戒めながら話さなきゃいけないな、よーく思います。

 今日はそういったことも含めてお話ししたいなと思うんですけど。どうでしょうか。「日常に潜んでいる」という点については…。

太田:性暴力とか、性差別とか、そういうことに関心があって、何となくそれに関わる仕事になれたらいいなと、いうことをずっと思ってたんです。それで、色々あって弁護士になったんですけども。

 弁護士になってから「セクハラ案件に関心があります」というふうに言っていたので、「太田さんはそういう事件をやるひとなのね」と周りに認識されて、ご紹介があったりして性暴力関係は割とやっているほうかとは思います。今は離婚事件の取り扱いが多いですが、ずっと性暴力には関心を持ち続けています。

 セクハラ事案に関しては、駆け出しの頃に結構びっくりしたことがあって。この映画の話では違うかもしれませんけど、セクハラ事案って、「触ったか、触ってないか」で争いがあるのかと思ってたんですよ。「お尻触っただろう、いや触ってない」と。でも実際は多くの場合、「えー、キスしましたが、それが何か? 彼女も合意していましたけど」みたいな。性的接触自体があったことは認めたうえで、そうした行為に合意があったかなかったかが争点になるということがかなりあって。私も始めの頃は「いや、触った証拠あるぞ、否定するならこの証拠をばんとだしてやる」ぐらいに思ってたらば、そこは認めちゃうんだ! みたいな。

 もちろん、性的接触があったかどうかが熾烈に争われるケースもありますが、でもそこは認めた上で「合意の上でなのかどうか」を争われるというのは多分、かなりありますね。今民事裁判されている、伊藤詩織さんの事件もそうじゃないですか。

 あれは、被告の山口敬之氏がもともと安倍首相に近いジャーナリストだったという背景などもあって色々注目されたところもあるわけですが、性的接触は認めた上で「でも彼女は当時合意してたんですよ」と反論されるというのは、かなり、多くあるタイプの事件だと思います。

 男性側が

 「あのときはああいうふうに合意していたのに」
 「女のほうから誘ってきたのに」
 「今になって、彼女が急に合意がなかったと言いだしてとても困惑している」
 「後からなにかの理由で自分に恨みを持って、本当は合意があるセックスだったのに、レイプされたといって自分を貶めようとしているんだろう」

みたいなふうに言うのは、特にもともと面識がある人間関係では、本当にあるあるなんですよね。というか、私が今まで関わったセクハラのケースは、ほぼ、全部そうかもしれないです。あれも、あれもと思い出したら、みんなそうかも、、、。

 「俺ら、付き合ってたじゃん」くらいのこと言われてこっちがびっくりして「えーいつから!」みたいな。

舩橋:それは認識の違いということで、片付けていいんですか。

太田:いや。

舩橋:違うんですよね。

平井:そうですね。認識の違いというか。嫌がったか、嫌がってないかという話になってきたら、結局、その場では女性は嫌がってないわけで。

太田:そうですね、はっきりとは嫌と言えていないケースも少なくないと思います。

平井:でも。

太田:見た感じ、カメラだけばーっと回していると、ニコニコしているように見えることさえあるかもしれません。内心では必死で、曖昧にやんわりかわすことで、相手があきらめてひいてほしいと念じているんだけど、みたいな。

平井:でも、嫌がれない背景があってという話は結局、メールいただいてた。社会的な背景みたいなところになってくるだろうなと思っていて。合意したか、してないかというのに関しても、女性からすると、その場では「合意した」としか言いようがないこともあるのかなと。

太田:「合意に追いやられる」みたいなね。

平井:追いやられる。合意せざるを得なかったじゃないかみたいな。

太田:そう。権力構造みたいなものがあるんです。「同意せざるを得ない」とか、断ろうにも断れない関係性があることもあるってことです。

 そこをもう少し噛み砕いていうと「断りたいのに断れなかった理由はなにか」というふうな感じになるんでしょうね。